楽しいわが家(3)

 にぎやかで楽しい晩御飯が始まる。
「ママ、龍太ったら、シャンプーをシュポシュポ、いっぱい出しちゃったんだよ」
「あらあら、もったいない。ママはもったいないことをする子は嫌いよ」
「おねえちゃんも、キライよ」
「ごめんなちゃーい」
「もう、しちゃダメ。わかった?」
「はーい」
 おしゃべりに夢中になったふたりは、ピラフやサラダのレタスをスプーンで口に運 ぶあいだにも、ぼろぼろこぼしている。床は食べかすでいっぱいだ。
「あら、もうこんな時間」
 有美は、壁の時計を見上げて眉をひそめた。日が長くなったから気づかなかった。
 7時過ぎには、この家の「本当の住人」が帰ってきてしまう。
「さあ、ふたりとも支度して。そろそろ出発するわよ」
「はあい」
 汚れた食器を流し台の上にぞんざいに積み上げると、あわただしく手にはめていた 手術用の薄い手袋を取る。お絵かきの道具をリュックにしまい終えた子どもたちの手 からも、手袋を取ってやる。
 玄関の扉からこっそり外を覗き、人通りのないのを見届けると外に出て、慎重に扉 をロックした。
 もともと子どもの頃から手先は器用だった有美がピッキングの技術を習得するの に、そう時間はかからなかった。
「楽しかった?」
「うん、またここのお家がいい」
「それはだめなのよ。一度きり。そういう決まりなの」
「じゃあこんども、お2階のあるお家ね」
「そうしましょうね」
「ママ、大好き!」
「だいしゅき!」
「ママも、実葉と龍太が大好きよ」
 夕暮れの色に染まった道を、三人の親子は手をつなぎ、大きな声で歌いながら家路 をたどった。

(終)
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